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2022

5/11

『進化』or『退化』


 

皆様こんにちは。

GWはゆっくり出来ましたか?
新学期、新入学、新しい職場…もうすっかり慣れた頃でしょうか?

さて今日は『歯の萌出順序』ついて少しお話していこうと思います。
私が歯学部を卒業して、矯正科に入局した頃、矯正認定医を取得するためには研究論文を最低一本書かなくてはならず、私が選んだテーマがこの『歯の萌出順序』でした。
あれから26年。
子供達のお口の中は、少しずつ少しずつ【進化】へと向かって進んでいます。

【進化】はゆっくり長い時を経て変化していきます。
歯の【進化】とは、形態変化→矮小化→欠損 段階を踏んで現れます。

ヒトとヒトに一番近いチンパンジーは、600万年前に分かれ、ヒト科の犬歯は約450万年前に『縮小』し始めたそうで、そもそも犬歯はメスよりもオスの方が大きく、小さくなったのは、女性が支配力や攻撃性の低い男性を好むようになったからだと推測されています。
歯が今の大きさになるまでに450万年!
気が遠くなるような時間がかかっています。
形態が変わる事や、順序が変わる事は、実はちょっとやそっとの事では起きない事なのです。

私達ヒトが所属している霊長類(サル、ゴリラ、チンパンジー等)の歯の本数と歯種(切歯、側切歯、犬歯、第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯)は同じで、その萌出順序にも変わりはありませんでした。
しかしこの萌出順序に、今、劇的な変化が起きているのです。

一番初めに生えてくる永久歯は、元々下の奥歯(第一大臼歯=6歳臼歯)が先でした(=M型)。
これが1970年に奥歯よりも先に下の前歯が萌出する(=I型)が報告され、1984年日本小児歯科学会全国調査により、I型がM型を上回り、1988年には男女共にI型が上回ったと報告されました。

時は高度経済成長期~昭和から平成に年号も変わる時期になります。

欧米ではこの萌出の逆転は、1950年以降起きており、この様な変化が今、世界中で起こっているのです。

何故長い間変化しなかった萌出順序に逆転が生じたのでしょうか?

単純に、歯が生える場所がなければ歯は萌出することは出来ません。奥歯と前歯を比べた時に、制限がないのは前歯の方で、順序が変わったのは前歯の萌出が早まったとも言えるのです。それを裏付けるように、1984年以降、永久歯の先行歯である乳歯の萌出時期が、男女共に1ヶ月早まっていると報告があります。

萌出順序の逆転は諸説ありますが、
①母乳か人工乳(ミルク)か
②離乳時期の早期化
③食生活の変化=軟食化
④生活環境…核家族化になったことへの問題
⑤虫歯罹患率の低下
など、色々言われています。
何れも、後方にゆとり(顎の大きさが大きくならなければ)が出来る事で奥歯が生えるのです。

これらの要因によって歯の萌出時期や順番はおろか、歯の形態、サイズの縮小化。埋伏化(歯が顎に埋まって生えてこれない)。完全な欠損歯。など様々な変化が現れて来ています。

歯の萌出は、身体の成長にも深く関わっています。
昔から、第一大臼歯が6才頃生えてくるため別名“6才臼歯”と呼ばれていたり、第二大臼歯は12才頃萌出し、この歯が生え始める頃に身長がぐっと伸びることから私は“思春期成長お知らせの歯”と呼んでいます。第三大臼歯にも20才頃萌出。昔は寿命も短く、親は子供のその歯を見ないまま死ぬこともあったと言う事から。現代では大学や就職で親元から離れ見ることも無くなった。とも言えるでしょうか?別名“親知らず”と言われているように、成長の節目に歯が萌出してきています。

多くの霊長類は、離乳時期≒第一大臼歯萌出年齢で、野生のチンパンジーでは3才前後と言われています。
ヒトも本来、離乳時期はチンパンジーと同じ3才位だったと思いますが、ママの仕事復帰や第二子、第三子を考えた時、離乳時期を早めた方が都合が良くなり、今や保健所も育児雑誌も軒並み0才5~6ヶ月から離乳食を与え、1才前後には完全な離乳になっているようです。

今までの自然な子育てを、こちらの都合で変えていくことは果たして良い事だったのでしょうか?

歯の萌出順序が逆転した頃と同じ時期、
平成(1989年~)に入ってから、初潮年齢低年齢化の進行。
日本は今や世界有数の早い性成熟傾向を示しているそうです。これらの早期化は、成熟前傾現象の一つであり、やはりここでも食生活を含めた栄養状態と生活環境が関わっていると指摘されています。

再び、話を戻しますと、私達の身体は、生命を維持させるための様々な情報が遺伝子に組み込まれて誕生します。

生まれたての赤ちゃんには、原始反射と呼ばれるものがあり、その中でも【吸綴(きゅうてつ)反射】は、口に何かが触れると吸う行動を起こし、この反射のおかげでママのおっぱいをしっかり吸うことが出来るのです。しっかり母乳を吸うことで、舌ベロの使い方を習得し、またしっかりくわえる事で口輪筋も育つのです。

一方、核家族化が進んだ事により、母親への負担が増し、少子化に拍車をかけ、おじいちゃんおばあちゃんの知恵や今まで伝承されていた子育て、躾(しつけ)、教育までも手探り状態…今まで以上のストレスが個々に加わるようになりました。
女性の社会進出、でも、家事も育児もしなくてはならない…
この様に負担が多い分、時間を短縮出来る便利グッズの登場。直ぐ食べられる食生活へと変化していきました。
また少子化により、『見て真似る=学ぶ』兄弟がいなくなってしまいました。親は共働きの核家族。今まで普通に何も教えなくても『見て学んできた』子供達の真似る人がいなくなってしまったのです。特に食事は大切です。ちゃんと噛んで食べる為には時間が必要です。その食事の時間さえ時短化されてしまっているのです。

この様な生活が定着すれば、本来ゆっくりと育まなければならない機能の発達をすっ飛ばし、歯が生える時期と口腔内の環境が一致せず、よく噛まなくても大丈夫な様に歯の大きさは小さくコンパクトに、育たない顎の中では萌出してこれない歯が埋まり、ガタガタの歯並びでも食べる事に困らない顎の関節が出来上がっていくことになるのです。

お金をかけて治せばいいのでは?
本当にそれで良いのですか?

ヒトはこれからどこへ向かって進化し続けていくのでしょう?
そしてその先にあるのは?

一見【歯】の視点からでは【進化】して、環境に適応している かの様に思いますが、果てしてこれが【進化】なのでしょうか?それとも【退化】なのでしょうか?

この先、私達はどの様な【進化】を遂げていくか分かりませんが、これが進むと今ある28本の歯(親知らずはカウントしていません)は、直ぐに20本、16本、15本…と減っていくでしょう。
親知らずは完全欠損、そして第二大臼歯の親知らず化…。
物を噛まない現代人にとって、奥歯は不用、なのかもしれません。

歯の萌出順序の逆転は、私達に警鐘を鳴らしているのかもしれません。

副院長 矯正認定医 清水直子